佳菜にとって、大好きだった夫の武志を戦争で亡くしたことは、せっかく掴みかけた安住の地を失うことに繋がりました。
夫だった武志は、自分が幼いころから可愛がってくれ、成長してからも一方ならない庇護を授けたのです。死ぬまで出られないと覚悟した織物工場から救い出し、和裁学校に入れて、和裁の技術を身につけさせてくれたのです。
武志が戦死したときにはその武志との子がお腹にいることが生きる支えになりました。その武志の忘れ形見となった子を出産の時に亡くしたことこそが、佳菜の不幸の始まりといえるでしょう。
とはいえ、武志が救い出してくれた命です。佳菜は、武志のその厚意に対してだけでも、自分が死ぬわけにはいかないと、懸命に生き抜く努力をします。
縁を取り持つ人があり、再婚しますが、武志への思いは断ち難く、再婚相手の頼りなさを思い知るにつけ、再婚相手への恨み辛みが、心の奥底に巣くっていきます。
それでも、子供達が大人になるまでは、と、幾度となく離婚という言葉を呑みこみながら、必死で子供たちを育てます。
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佳菜 | 主人公 佐吉の一人娘。 |
武志 | 佳菜の一番目の夫。 佳菜が幼い頃から可愛がっていたが、第二次世界大戦の末期に戦死。 |
佐吉 | 佳菜の父 旧家の家長。母のツネに、好いた妻との仲を裂かれて以来、放蕩を続けている。 |
正夫 | 佳菜の二番目の夫。 |
真沙子 | 佳菜と正夫の長女。 |
美沙子 | 佳菜と正夫の次女。 |
沙智子 | 佳菜と正夫の三女。 |
正也 | 佳菜と正夫の長男。 |
ナミ | 佳菜の実母 生き別れたまま、会えないでいる。 |
ツネ | 佐吉の母 故人。家の存続に執着する余り、佐吉とナミを引き裂いた。 |
タミ | 佳菜の継母 佳菜が幼い頃に、佐吉の後妻になるが、1年もたずに実家に戻っている。 |
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