家柄がものをいった時代、嫁は、夫と舅、姑にかしづき、跡継ぎの男子を産むことで、嫁としての地位を築くしかありませんでした。佐吉の母ツネは、そういう時代の女性であり、旧家に嫁ぎ、嫁として家を存続させることに心血を注ぎます。
一人息子であり、跡取りである佐吉が早く嫁をもらい、跡取りを儲けてくれることを願いますが、佐吉が嫁を貰おうとしないので、何とか早くしかるべき家から嫁を迎えようと、佐吉の嫁選びに苦心します。
ところが、佐吉は、夏祭りでナミという娘を見初め、渋るツネを、何とか説き伏せて嫁に貰います。
ナミはすぐに身篭りますが、女の子が生まれ、ツネは、これ幸いと、「後継ぎの男子を産めない女を嫁にしておくわけにはいかない」と、ナミを赤ん坊共々実家へ帰してしまいます。ツネの強引さに押し切られ、佐吉は母親であるツネに逆らえません。
佐吉の心中は憤懣やるかたないものでしたが、ナミも佐吉恋しさに幾度となく家人の目を忍んで会いに戻ります。が、跡取りといえども家の継承の責任は重く、家中心の社会は容赦なく二人を引き裂きます。
佐吉は、好いたナミとの仲を、生木を裂くように繰り返し引き裂かれたために、何をする気も失せてしまいます。精出して働くことを全くしなくなります。引き取った娘の佳菜にも父親らしい愛情を抱くこともできず、見かねたツネが育てるに任せます。そして、先祖伝来の田畑を食い潰し、放蕩に明け暮れるようになっていきます。
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佐吉 | 主人公 田舎の旧家の一人息子。 |
ナミ | 近隣の豪農の娘 佐吉に見初められ、最初の妻になる。娘佳菜を生んだ後、離縁される。 |
ツネ | 佐吉の母 家の存続に強く執着している。 |
弥祐 | 佐吉の父 故人。 |
タミ | 佐吉の後妻 後に佐吉の後妻になる。佐吉と上手くいかず、継娘の佳菜に辛く当たる。 |
佳菜 | 佐吉の長女 父佐吉に可愛がらってもらえず、祖母ツネに育てられる。 |
武志 | 佐吉の甥 薄幸の佳菜にほのかな思いを寄せる。 |
蔵人 | 孝蔵の父 佐吉とナミの仲人。 |
孝蔵 | 武志の父 武志の佳菜への思いを知り、武志を男として導く。 |
ヨネ | 武志の母 佐吉の姉。夫に従順な大人しい女性。 |
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