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Mosaic Box
梅之ゆたか著
小説ファンタジー詩集歌集
概要・登場人物: 櫂はあるけれどあるが儘におやくっさま
おやくっさまの夏祭足入婚放蕩後妻葦の如お兄ちゃんツネ往生望郷

ツネ往生

佳菜の従兄の武志が中学に進学して、初めての夏祭りがやってきた。ツネは自分が付いていってやるつもりで佳菜に浴衣を着せていたが、佳菜が、祖母に浴衣を着せてもらいながら、珍しく祖母にだだをこねた。

「今年はお兄ちゃんがおらんけん、おやくっさまい、行きとうなかごたる。」
「そぎゃんな。おばあちゃんが一緒い行っちゃろうか?」
「ばってん、山道ばい。おばあちゃん、大丈夫と?」
「良か。大丈夫ばい。佳菜んためじゃ。そんかわり、ちいっとゆっくり歩いちゃらんね?」
「うん!そやけ、途中で休んでん良かとよ。」
それから早二年が過ぎた。佐吉は相変わらずの放蕩三昧で、再婚の話にも耳を貸さない。親戚が家の行く末を案じても、「佳菜が継ぎゃあ良かやなかな、おりゃあ要らん」というばかりで、話にもならない。義兄孝蔵の意見にも耳を貸さなくなっていた。
二度も仲人を蔑ろにされた蔵人も、もう仲を取り持つだけ無駄だろう、とツネに言うようになった。もう佐吉のことは諦めて、佳菜をしっかり教育したが良い、女子でも家付き娘なら婿の来てはある、とも言うのだった。
ツネは何年もの心労で心身ともに疲弊していたが、蔵人の言葉で、佳菜のために長生きせねば、と思い、まだ死ねない、とも思うのだった。武志が家督を弟に譲って、この家を継いでくれたなら、どんなに安心できることだろう。出来の良い長男を、孝蔵や蔵人がそう簡単にくれるわけはないだろうけれども。
しかし、自分も年を取った。もしもということがある。言うだけは言うておいたが良かろう。ある日曜日、ツネは佳菜を連れ、蔵人と孝蔵を訪ねた。

「申し、御主人な、ござっしゃるな?」
「あれ、お母しゃん。どげえしたと。改まってから。」
「ああ、蔵人さんと孝蔵さんな、ござらっしゃあな?」
「丁度良かたい。二人ともおんしゃあばい。」
「そげえな。あんた、佳菜ばちいっと見とってやらんね?お二人に折り入って話しがあるき。」
「良かばい。佳菜ちゃん、おばしゃんと畑に行かん?帽子は持って来とうね?」
「うん!持っとう。佳菜、ちゃんとお手伝いでくうよ。」
「ああ、佳菜あ、良か子じゃ。おにぎりば作ってから行こうな?」
佳菜をヨネに預けたツネは、奥座敷で蔵人、孝蔵親子と向かい合っていた。
「ツネしゃん、ようござったな。まあだ佐吉っあんがあげえあるけん、どげえしとらっしゃあかと思いよったたい。」
「ほんなごつ、できの悪か息子でから、恥ずかしかこって。お二人にゃあ、ご迷惑ばっかいかけちから。」
「良か良か。ツネしゃんな、女子やきに。男がごと、でくうわけがなか。家長に意見すっとは、おい達親戚の男ん役目たい。役い立たんで、こっちこそ、すまんですたい。」
「そげえ言うてもろうて有難うござす。少しゃあ、言いやすかですばい。」
「なんですな?」
「実は、佳菜ん先のことですばって。」
「佳菜のな?そらあ気いなっとは当たり前たい。おいに何かでくうこつがあるな?」
「老い先短いもんのたっての頼みですけん。何とか許してほしかばい。」
「遠慮せんで言うてみてんなっせ。」
「佳菜い、武志しゃんばくれんですやろか。」
「なんな、武志ば、あんたん家ば継がすうてや。」
「でけんですやろか?武志しゃんは跡取りやけんと思うたとばって、次男さんも三男さんもおらすけん、どげえなもんですやろか。」
「う・・・ん、おいが言うともなんばってん、武志はできが良かけ。こん家ば継がすっとば楽しみいしとうとやが。」
「そこを何とかでけんですやろか?武志しゃんな、佳菜ばよう可愛がってくんなって、中学い行く前にゃ、佳菜ば嫁にもらうち、佳菜に言うて行きなったけん。」
「ほ!そげえな。はっはー、あん子がもうそげなこつば言うて行ったとな。よっぽど佳菜んこつが心配ばいなあ。」
「そんで、佳菜あ、武志しゃんば大人しう行かせたとです。」
「・・・そうな・・・。良か。ほんなら、武志が佳菜ばほしかちゅうとなら、同じ親戚やし、他ん子ばやるわけにもいかんやろうたい。武志は佳菜ばほんなごつ可愛がっとったけんが。」
「すまんこって。よろしうお願いしますけん。」
「よう言うてきなったな。おいたちゃあ、そげなこつ何も聞いとらんやったけん、いらんこつばすうとこやったばい。」
「有難うござす。ほんなごつ、お蔭さんで、こいで安心して死なるうですばい。」
それからまた二年が過ぎた。武志を養子に迎える約束ができたことで安心したツネは、安堵したせいか、少し若返ったように家事を切り盛りし、財を残そうと務めたが、佐吉の放蕩は止まるところを知らなかった。
そのうち、だんだんと胃の具合がおかしいことが多くなり、医者に見てもらうが一向に良くならない。数ヶ月経って、ツネが寝込むと、医者は胃癌と診断を下した。
息子の放蕩で財産をなくし、見舞い客もろくに訪れず、看病人も、時々様子を見に来るヨネと近所の小作人の女房だけだった。無理矢理傍にいるように言いつけられた孫娘の佳菜は、こわごわ顔を覗くしかできず、佐吉は全く近寄りもしなかった。
己のしたことの結果とはいえ、今や、死の床にあって、自分を見守るのは、幼い孫娘だけになっていた。皮と骨だけに痩せこけたツネは、しばしば孫娘の名を呼んだが、佳菜にとっては、おばあちゃんの優しさを残さない恐ろしい顔に思えた。
そして今、どうせ男子に恵まれなかったのなら、あの嫁を、佳菜の母を許しておけばよかったと、ツネは今更ながらに悔やんだ。そして、佳菜を託すべき武志の中学卒業の日まで生きられないことを恨んだ。自分の死後は、ヨネと孝蔵が力にはなってくれるだろうが、頼みの武志はまだ中学を卒業してもいない。佐吉が佳菜をどう扱うか、良い方には少しも考えられなかった。

ツネの臨終のときが来た。近所の人々は、誰が死に水を取るかで相談した。息子は近寄りもしないし、孫娘しかいないが、幼い子供には、余りにもむごい仕打ちに思えた。しかし、結局は誰も適当な者がいなかった。可愛そうに、ツネに育てられたとはいえ、佳菜はツネの死に水を取らされて、死ぬほど怖い思いをさせられることになった。
葬式の日、佐吉は流石に家長然としてむっつりと座していたが、全ては、嫁に行った姉、ヨネの婚家を始めとする近い親戚達の手で進められた。葬式が滞りなく終わると、佐吉は親戚一同に頭を下げて感謝し、己の所業を詫びた。
親戚一同は、その佐吉の詫びを聞き入れたが、家政を佐吉に任せるのは躊躇った。このままでは古くからの旧家が潰れてしまう。親戚一同で協議の結果、家政は、ヨネの婚家で下働きを雇い、当分、ヨネが両方の家を行き来することと決まった。傾いた財が落ち着くまでという条件で親戚の援助がなされることとなり、佐吉は何も言わず、頭を下げてそれを受け入れた。

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