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Mosaic Box
梅之ゆたか著
小説ファンタジー詩集歌集
概要・登場人物: 櫂はあるけれどあるが儘におやくっさま
おやくっさまの夏祭足入婚放蕩後妻葦の如お兄ちゃんツネ往生望郷

後妻

佐吉は再婚しようと思ってはみたものの、しばらくはツネに言い出せないでいた。そして、その考えに馴染み、再婚の意思が変わらないと思えるまでには、また季節が移っていた。
やっと踏ん切りをつけてツネに再婚の意思を伝えると、ツネは喜び半分の顔ではあったが、良い嫁を見つけてやると受けあった。
「実は今、まあまあの娘がおるとたい。ばってん、出戻りやけん。」
「おいは男ばってんが、同じたい。構わんが。」
「良かな?ちいっとは、どげえかあるかもしれんばってん、良か娘女やき、問題はなかて言いよらすけん。」
「任せるばい。」
「そげえな?そしたら、蔵人さんに話してもらおうたい。」

佐吉がそう言うのを聞いて、ツネは喜びを隠し切れなかった。顔はほころぶが、あまり喜んでいつむじを曲げられても困る。久方振りに自然に顔が綻んでくるのを隠そうと、その場を急いで離れ、いそいそと嫁取りの算段にかかった。
その娘はタミといい、ナミ同様に出戻りであったために、その実家では再婚の話に躊躇があろうはずはなかった。世間体が特に気にされる田舎では、出戻り娘はどこのうちでも肩身が非常に狭い。当のタミも実家で肩身の狭い思いをするよりは後妻になった方が良かったのかもしれない。
話はあっけなくまとまり、再婚同士というので、内輪だけの簡単な式が執り行われた。が、ナミとの時と違い、二人が顔を合わせたのは、その式の場が初めてだった。当時はそれが当然としてまかり通っていて、逆らおうとする者は滅多にいなかった。ナミと佐吉の結婚こそが異色だった。
このところ、ツネは自分が後どれくらい生きられたものかと思わない日はなかった。簡単な式が済み、二人が近場の温泉に向かうのを送ると、ホッと肩を撫で下ろした。まだ二人とも若いから、すぐに子ができるだろう。ナミを離縁してから、もう六年が過ぎようとしていたが、これでやっと跡継ぎに恵まれるかもしれない。
佐吉は角隠しを取った後妻タミを見てがっかりしていた。頑丈だけが取得の娘のようだ。ツネと上手くやっていけるだろうか。ナミに似たところでもないかとよく見たが、姉妹でもないのであるわけがない。それにしても、もう少し顔なりと可愛げがあっても良さそうなものを。ま、やってみるしかないか。
一方、タミの方も佐吉を見てがっかりしていた。えらい優男みたいで、いかにも頼りなさそうに見える。お姑さんをこっそり上目遣いに見てみると、性格のきつさが顔に出ている。こいじゃ前の奥しゃんはえらい苦労したっちゃろうな。また、嫁イビリばっかりやろか。好かんなー。ほんなごつ女子に生まれるもんじゃなか。ま、旦那にはイビられんですみそうや。
そんな内心は、二人とも尾首にも出さず式を済ませた。家のための婚姻とはそういうものだった。加えて、女に自立の道がなく逃げ道がない以上、女は我慢するしかない。世界中のどの国でも、腕力のない女は虐げられてきた。人の社会が競争社会である以上、腕力で劣る女は、虐げられ続けるのだろう。

後妻を迎えたからには、佐吉の放蕩も治まるだろうとは、誰もが考えていたことだった。当人の佐吉もそう思っていた。放蕩をやめて生きる努力を始めるつもりだった。
しかし、周囲のものは気にもしていなかったし、佐吉も忘れていたが、佐吉には佳菜という娘がいた。再婚すると、ツネは、当然、後妻のタミに佳菜の面倒を見させた。そうなると、タミの手前、佐吉は佳菜に目を向け、構わざるをえない。佐吉は、またもや、ナミの面影に悩まされ、近頃はイライラしてばかりいる。タミはそれに気づいたが、姑に尋ねるわけにもいかない。
折りも折、実家の父親が具合が悪くなり、タミの名ばかり口にするらしい。姑に実家をたずねる許可をもらおうと思い立った。ツネも、二つ返事で、実家に顔を見せて父親を安心させてきたらどうかと言い出した。

タミは里帰りの支度を整えると実家に向かった。里帰りで帰るのは嬉しかった。実家とはいえ、出戻りの暮らしは辛かった。何で女に生まれたのかと、何度嘆いたか知れない。嘆いてどうなるものでもないが、嘆かずにはいられない。ただただ男というだけで、どんな阿呆でも女をかしずかせることができるのだから、男に生まれるのが良いに決まっている。
実家では、里帰りだと、やはり待遇が違う。同じ家で育ったのに、長男である弟だけが全てを継いでいる。父が隠居して、まだ二年にもならないというのに、家の雰囲気はがらっと変わってしまった。ここはもはや私の育った家であっても、私の居場所はない。
父は会えて喜んでくれたが、弟ときたら、いつ帰るのかと聞いてくる。帰ってきたばかりなのに。追い返される前に聞くべきことを聞いておかないと。そう思って母に尋ねると、夫は先妻を大層好いていて、姑が追い出した後も隠れて会っていたが、先妻は再婚したというではないか。それを、夫は諦め切れないのか。
聞きたいことを聞いてしまうと、タミは居心地の悪い思いをする前に実家を出た。しかし、何とかやっていこうとする気持ちはしぼみかけていた。それでも、やっていかなければ、また出戻りたくなければ。
タミは務めて佐吉に話しかけ、気を引いて、先妻のことを忘れさせようとした。しかし、そのうち、佳菜がいると、佐吉のイライラが酷くなることに気づいた。姑の手前、佳菜を遠ざけるわけにもいかない。後妻の自分が面倒を見るのは当たり前なのだから。
佐吉は行き先も告げずに留守にすることが多くなった。帰ってきても、タミの顔もろくに見ようとしない。佳菜の傍に近寄ろうともしないし、佳菜が近寄ろうとすると、怒鳴り散らすようになった。
そんな夫にタミはひどく腹を立てた。自分をこんな家に厄介払いした親にも腹を立てた。こんな縁を取り持った仲人の無責任さにも腹を立てた。
裕福な旧家ということだったのに、日々の暮らしも危うい、僅かな小作料で暮らしていかなければならないのだから当然だろう。しかし、どんなに腹を立てても嫁に来てしまった以上はどうしようもない。解ってはいるが、腹の虫が治まらない。

先妻の娘の佳菜はまだ幼いが、タミの子ではない。小学校に上がってからは、言いつけを聞かないことが多くなり、口ごたえもするようになってきて、いかにも可愛げがない。最近はまとわりつかれると鬱陶しくてしかたがない。
継子いじめとわかっていても、お金のこととなると佐吉への不満が爆発して、特にくどくどしく言い立ててしまう。学校の授業で絵を描くのに紙と絵の具がいると言われても、そんな余裕などありはしない。激しく叱咤して、贅沢ばかりして、と責め立てた挙句、画用紙代だけしか渡さない、ということもあった。
後で後悔はするが、イライラは日に日に募ってくる。家を統制すべき家長の佐吉は家に居つきもしない。そんなこんなで、結婚生活を続けていけるわけがない。タミは婚家の誰とも折り合いがつかず、佳菜をさんざん継子いじめした挙句、見切りをつけて家を出て行った。子供ができなかったのは、どちらにも幸いだった。

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