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《話せばわかる》。人が、自分より権力のない者に向かって言う、お決まりの文句の一つ。しかし、そういう人に限って、決して《話せばわかる》などとは夢にも思っていない。自分が何かをするときは、《嘘と建前と本音》を駆使して潰しにかかる。
人が野生であるならば、弱肉強食は単なる自然の掟といえるが、自分は野生動物だという人間はいない。人は社会を築き、半分は社会を支配しようとし、半分は支配されることに気楽さを感じている。 それでも、人は《話せばわかる》と常に口にする。そして、無情な現実は、対等の立場で話す場合でも足元を掬いかねない。それでも、聞いてもらわないことには解ってもらいようがない。聞く人に、善人然とした仮面をつけて言われると、純朴な人ほど、《疑っては自分の品位が下がる》と自重さえして、《話せばわかる》と言ってもらったことに、言ってくれた人に、純粋に敬意さえ感じてしまう。
話す人には、本当に自分の話を認めてもらえるのかと疑う気持ちもあるが、それを口にすれば、聞く人の品位を疑っているのを認めることになる。そうなれば、当然、話さえ聞いてもらえないかもしれない。それは何としても避け、疑いの気持ちを抑えこんで、まず聞いてもらう以外にない。聞く人はそれが判っている。だから、敢えて後の言葉を口にしない。後の言葉が《わかっても望みは叶えてなどやらない》と続く可能性は大きい。
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《話せばわかる》と言われて話し、解ってもらえたとしても、何かが変わるという確約はない。文字通り、《わかる》だけにすぎない。この段階までは、《話せばわかる》の後に続くべき言葉を、話す人は、ひたすら希望にすがり想像するしかない。話す人が聞く人と対等に話せない場合は、それが口にされることは、最後の最後まで、まずない。握ることのできる弱みをすべて握り、話す人を完全に支配するために。
最良の答は、《理解したら、あなたの望むとおりにしてあげましょう》だろう。少なくとも、話す人はそう望む。しかし、相手が《解ってほしいと訴えるまでわかろうともしない》のでは、これはまず有り得ない。人の欲は得になることを見逃さない。得にならないか、損をする公算が強いから避けているにすぎない。慈善を旨とし、損をしても絶望する恐れのない人なら、敢えてやるかもしれないが。
次善の答は、《理解したら悪いようにはしないから》。これは、身売りに等しい。対等でない場合は、《悪いようにしないから、あなたのすべてを差し出しなさい》と言ったに等しい。これは圧倒的に多い。 得たもの以上に失うものが多いのが《取引》というものらしい。《取引》という言葉は、本来もきれいな言葉とはいえないが、成人してからはことさらに薄汚く思えてしかたがない。封建時代の直訴は命がけだったらしいが、現代社会は足の引っ張りあいばかりで、仲間同士で助けあうことも少ない。精神的にはどっこいどっこいではないだろうか。
[ 2006.3.18 ]
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『誠意』ということばは、己に不徳があれば認め、恥じ、人の行いにおいて良いほうに理想的であろうとする精神をさす。このことばは日本人以外には理解できないと言われるが、そんなことはない。人倫に沿う行為は数多くあるし、その行為には、紛れもない『誠意』が満ち溢れているのだから。
しかし、勝てば官軍の社会では、人は戦略や戦術を奉じ、卑怯というべきも戦略や戦術と称され、『誠意』は油断や無能とされカモられる。物事に節度を持つ者同士であればこそ『誠意』は通用する。でなければ全く通用しない。
それを知ってもなお、『誠意』を理解できない人々に『誠意』をもって当たるなら、飢えた野獣の前に丸裸で立つに等しい。野獣に『誠意』を解くことはできないのだから。
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話すにしろ聞くにしろ、相手の理解度や理解の仕方に合わせる必要があるが、その程度を知ることからして、なかなかに難しい。同じ説明を幾人かの違う人から受けると、相手に合わせて相手が解るように話そうとする人は、人の話を聞くことにおいても聞き上手であることに気づかされる。
口にすれば楽になる、ってことあるよね。でも、誰にでもは、言っちゃいけないんだね。
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