《建前と本音》は、人の理性と闘争本能のせめぎ合いの結果だろうが、昨今の建前と本音の有り様は、一億総政治家を思わせる。建前に秘められた本音。いかにも思慮深く、建前を本音であるかのように扱うさまに、つい信じてしまうことが多い。しかも、人を蹴落とすチャンスも逃さない。

二重人格と二枚舌の使い分けは、現代では不可欠になってしまっている。いかにも善人然として建前を唱えながらサッと足をかける。すると、誰もかれもがそ知らぬ顔で慰め、訓戒を述べ、時には揉み手しながら建前をかざす。本音はもちろん違う。

足をかけられるようなヘマをするからだ。何てバカなんだ。あいつだけに得をさせてたまるか。自分だって、こいつから何か剥ぎ取れるものがあるはずだ。せめて、貶めてうっぷん晴らしだけでもしないと損だ。というようなハイエナ精神が、みるみる大きく膨らんでいる。まずは、訓戒から攻撃が始まる。

『足をかけられるようなへまをするなんて。用心が足りないから。ああいう人間がたくさんいるのも分かってないなんて。こうやって、ああしないと。お金がない？コネがない？そりゃぁ、ちゃんと、見る人は見てるんだから、真面目に一生懸命やってないからだろう。』（ああバカじゃないか。何て愚か者なんだ。何て世間知らずなんだ。真面目に一生懸命やってるところを、要領よく人に見せないからだ。全くバカだ。自分はちゃんとやれてるのに。）

『ちゃんと、見る人は見てる』そう、良くも悪くも、見るべき人が見なければ、何事もなかったことになるということだ。見るべき人が見なければ、真面目も一生懸命もないことになる。常に、要領良く見るべき人にちゃんと見せなければ、どんなに真面目に一生懸命やっても、その誠意を認められることはない・・・。

しかし、社会が、『ちゃんと、見る人は見てる』という限り、『ちゃんと見るべき人が、ちゃんと見ていない』のなら、見るべき人には、ちゃんと見なければならない責任がある。正否を問わず言い訳を許さない社会体制でそれをいい加減にされると、要領の悪い正直者は浮かぶ瀬がない。

気晴らしで満足する者は、そこで気が晴れて攻撃をやめる。しかし、ハイエナはここから本領を発揮する。盗れそうなものは根こそぎにしないと満足しない。最悪、無理のあるモナリザの微笑みであっても、笑える、それが許せない。

必死で立ち直ろうとすると、まだ気力を残す何かを隠してるんだろう、生意気な、許せるか、盗ってやる、となる。まだ生きているじゃないか！まだか！まだか！・・・そして、死んでしまったところで、やっと、深く後悔している振りをする。（なんだ！あてつけがましい！死ぬなんて！死ぬほどのことじゃないだろうが！困らせようと思って死んだんだろう！そうはいくか！しかし、ちょっと楽しめたし、ここらで真面目にやるか。）と、《善良な一般人》に変身して、子の親になる。

人の未来を簡単に踏みにじる人間が、簡単に後悔などするわけがない。カッとなって前後の見境をなくしたのとは違う。死に追いやるまでに考える時間は山のようにあったのだから。死なせないまでも五十歩百歩と考えずにはいられない人に、実によく出遭う。