人は自分の下に人がいるだけで安心する。助けようというののではなく、まず矢面に立つのが自分ではなく、自分のほうが助かる確率が高いことに。競争社会の大きな弊害だ。しかし、その程度で満足しないのが人というもの。多数のうちの少数であるほど勝利感を強く感じる。倫理観を振り捨て、人を蹴落として勝利を得る者は後を絶たない。その姿は、当の本人がどれほど誇ろうと、人として誇れるものにはなり得ない。

『勝ち組』は『負け組』があるから成り立つ。『勝ち組』のおこぼれに預かろうと媚びへつらい、『勝ち組』気分の維持に貢献する。先を争って追随するから醜悪な歴史が繰り返される。それが自分の子孫に降りかからない保証は全くないのだから、家族や一族の繁栄のためというのも詭弁にしかならない。家(国)のために家族(国民)を犠牲にして憚らない現実が証明している。

人は特別扱いに弱い。宗教の勧誘でも、救われるのは自分たちの宗教を信仰している者に限るという但し書きがつく。自分の幸せが万人の幸せになり得るのは真に対等で平等な場合にしかないものを。程度の差はあっても、諍いは国を荒廃させ、善悪の基準を最低まで落とす。その先に天国ではなく、平和の仮面をつけた生き地獄が待っている。そこから抜け出すためにどれほど努力が必要でも、身をもって当たるのは被支配者であり、支配者は常に安全なところで利を貪る。

圧政に耐え切れず毎日人が死んでいく。絶望し家族を殺す。己の命を絶つ。支配者には被支配者を絶望に追い込んだことへの良心の呵責もない。『美しい日本』に被支配者の姿は全く見えない。権力は何のためにある？の答が「『勝ち組』だけのために」であるのは明白だ。他国の内乱や弾圧も、企業の買収も根は同じ。自分の安泰を揺るがすかもしれないものは、叩くか、潰すか、取り込もうとする。

国内では、方や「桜を見る会」に誘われた、多額の税を奪われても贅沢のできる『勝ち組』の支配者、方や『勝ち組』からすれば少ない税でも衣食住を奪われる『負け組』の被支配者、その確執というところか。こんな桜ばかりのような日本にしたい？物価が上がるのはしょうがない？耐えて工夫？そんな安易な状況をとっくに逸した庶民の暮らしは、目があれば嫌でも目に入る！耳があれば嫌でも耳に入る！！労働者層は人ではないのか！！！絞っても絞っても絞り足りない雑巾か！！！！目も耳もあるのだからわからないはずがない。一体、何人の国民が、毎日のように絶望して死を選んでいる？大切な家族を殺すほど追い詰められている？桜の下に死体･･･が、悠然と桜を愛でる人々に対する、圧政で死ぬしかなかった祖先たちの精一杯の皮肉にも思える。

アメリカの真似だろうか。働けない人を死に追いやり、労働者の命を使い捨てにすれば、しばらくは人口が減り、物資も足りるだろう。しかし、働けなくなったら国に殺されるのがわかっていて働けるか？それに鞭打っても、労働者数が減れば、当然、生み出される物も減る。不足すれば左団扇ではいられないから、安泰の時にも『勝ち組』から『負け組』に追い落とす手を緩めない。占領や買収もその一部であり、媚びへつらいでその手が緩むことはない。支配者が支配者であるかぎり、その住む社会での栄華を極めた後は、保身のために自分以外を蹴落とし続けるようになる。

コンピューターには高い学習機能をつけても、自らには低い機能しかつけない人間。知識欲は、社会を発展させてきたかもしれないが、それが『勝ち組』思考に姿を変えたなら、蹴落とし社会が始まる。誠意はカモにされ、人も社会も堕落の一途をたどる。民主主義は崩壊し独裁主義へ向かう。意思を持たせないロボットと『勝ち組』の子孫だけの社会を造ろうというのかもしれないが、そこに平和は絶対にない。『勝ち組』の辞書には《満足》の文字がないのだから。

政治家と役人は、働けない者と仕事がない者には病死か餓死の、労働者には自殺か過労死の、奴隷に対するような二者択一を迫っている。選挙は自分の首を絞める政治家を選ぶためにあるのではない。長いものに巻かれるまま、奴隷願望に浸るのは勝手でも、自由と平等を望む他人を巻き添えにする身勝手さは絶対に許せない。奴隷を持ちたい者と奴隷になりたい者は、人身売買が罰せられない国へと出て行けばいい。