一時は話題になったが、意識が定着したようであり、してないようでもある。公共施設や病院では使用しない、というエチケットは浸透しているのだろうか。

電車やバスでは、マナーモードにするように、シルバーシート付近では電源を切るように、というアナウンスが流されている。アナウンス自体は大変良いことだが、残念なことに、多くの乗客に無視されている。アナウンスが始まっても、電源を切る様子はなく、平然とキーを打ち続けている。車内で電話をしていると思えば、堂々とシルバーシートに陣取って、携帯の画面とにらめっこをしている乗客もいる。譲るべきときにも席を譲らず、携帯の電源も切っていない。アナウンスなど無視されている。

なぜ、携帯が使用を制限されるのかなど、こういう人たちは考えないのだろうか。現代は医学が進歩したので、昔は助からなかった病気でも、助けられるようになってきた。その結果、体に精密機械を埋め込んで、あるいは携帯して、日常生活を送る人たちが増えてきた。その人たちにも、できる限り普通に生きる、権利がある。仕事をする人もいるだろうし、外出をしないでは生きられない。なにより、通院がある。

人ごみで、電源の入った携帯電話が近くにあると、その精密機械が誤作動する恐れがある。そうなったら、『ごめんなさい』では済まない。便利さが他人の健康を脅かす凶器になりかねないという原因は、いずれは開発によって解消されるのだろうけれど。

ちょっとした心遣いで、その不安は解消できる。良識をほんの少し働かせればすむ。しかし、残念なことに、最近は特に通用していない。その良識が最近はなくなりつつあるらしい。他人への思いやりなど、はなから無視して平然としている人がやたらに目につく。

あらゆる場面で、法律の網をうまくすり抜けた無法と、それを実行する人間が、大手をふって日の当る場所を占領している。しかも、野生動物は決してしない、不必要な狩を続けている。それも、手当たり次第の節操なしときている。

人を穴に落とせば自分は違う穴に落ちる、とは昔の諺だが、それは良識があって当たり前の時代でしか通用しない。嫌なら外出しなければ良いと言うのだろうか。貧富の差があるかぎり、国民がみな、車を持ったり、タクシーで移動できるわけではない。

影響の出ない携帯電話が開発されるまでは、危ない、のだから。明日は我が身、かもしれない。わが身に置き換えて、その辛さを思いやるだけでいい。難しいことではないはずだ。