昔は武士道、騎士道のように、たとえ戦争であっても、人として『これ以上はしてはならない』という一線があった。もっともっとと言うのは良い。それで人は繁栄してきたのだから。しかし、そこに人としての節度がなければ、和平も平和も絵空事でしかない。実際、対岸の火事は火の粉が飛んでこなければ我が身だけは安全なのだから。ありがたくもないが、他人の痛みを感じない心は世界共通とみえる。

日本への原爆投下についても、つい最近まで、政治家や他国の思惑はともかく、長引く戦争を終わらせるために、断腸の思いでなされたことだと信じようとしていた。国民を飢えさせてでも多額の援助をするのは、日本が他のアジア諸国にしたことのせいだと思うしかなかった。

しかし、世界の諍いとその対処を見ていると、疑わしくも思える。今にして思えば、日本ごときがのさばるのは許せないという大国のおごりが、意図してそこまで追いこんだのではないか、と。無条件降伏させるための断腸の思いは建前で、本音は有無を言わさぬ隷属であったのか、と。原爆を落とされたことで、贖罪は十二分ではなかったのか。

日本は原爆を実際に投下され、もっと落とすぞと脅されて無条件降伏を強いられた。徴収した税も、過去の贖罪のために敢えて世界中にばらまいてきた。そして、戦後６０余年、敗戦国とはいえ、その治療法もない被爆国民は不安の中で苦しみと共に死の隣で生き続け、死を迎えざるをえない。国民の大多数はろくな仕事もなく、おざなりな教育をされ、戦後の復興期が懐かしいほどの圧政下にある。

国民の大多数を踏みつけてまで他国に援助をした結果が、新たな核の脅威とは。ふざけるにも程がある。他国の援助を民の糧ではなく軍事に使うような国に、湯水のように援助してきたのか。世界で唯一核爆弾を投下され無条件降伏を強いられた被爆国の、更なる贖罪による援助金を、その核の開発に使った国はさぞかし腹を抱えて哂っていることだろう。

ここでふと思い出したことがある。学生時代、日本が同様に世界中から軍国主義を非難され、世界中から経済制裁を受けたことを。それが第二次世界大戦の火種になったということを。人を、あるいは国を制裁するということは、また、されるということは、それほど恐ろしいことなのだと、背筋が寒くなったのを覚えている。

その時代を実際に生きたことがなく、情報も限られているから想像でしかないが、余計な思想教育がじゃましない分、見える部分もあるだろう。人を抑えればその人生を変えることになる。国を抑えられれば国の命運を握られることになる。小国であればあるほど、その恐怖は大きいだろう。大戦前の日本に、北朝鮮の現状は似ていないだろうか。圧政だけでなく、核の研究においてさえも。

自分は大国といえる立場に立ったことがない。しかし、小国といえる立場になら常に立たされている。だから、小国の恐怖が少なからず解る。自暴自棄になって取り返しのつかない愚行に走る前に、世界のリーダーシップがほしい。しかし、日本国内は言うに及ばず、その願いは叶えられそうにない。そう思うと、何とも絶望的な気分になる。

容赦ない制裁は自暴自棄にさせるかもしれないが、生ぬるい制裁は歯止めが利かなくなるだけかもしれない。核を脅しに使う思想も断じて許せない。しかし、ともかくも、日本と同じ道をたどる国など、もう出さないように願いたい。

諸々の責任を取るべきは誰なのか。民主主義といえども、真実は伝わってこない。知りえた情報で判断するしかない。その状況では、大多数の、生活のためにただ働くしかない者ではありえない。現実に力を発揮する手をもがれた庶民ではありえない。国内法を無責任に国民に投げるのとはわけが違う。あまりにも露骨な格差を創りあげて大多数を踏みつけている以上、責任を取るのはそれを享受する者自らの手しか残っていない。